プログラム解説1
2023/01/31
■ショパン:3つのマズルカ 作品63
1846年初秋に作曲され、翌年に出版された。ショパンの生存中に出版された最後のマズルカ集である。
1曲目:ロ長調
構造も楽想も、ごく簡素になっている。決然たる和音でははじまるが、黒鍵の多いロ長調であるために、響きはやわらかい。中間部はイ長調になって、第1拍に8分音符のある特徴ある音型で旋律が歌われてゆく。三分節形式による第1節の反復ののち、コーダに入ってからの6/8拍子の2拍子変形があらわれる。
2曲目:へ短調
きわめて簡素なマズルカだが、ポーランドの舞曲というよりは、夜想曲のような沈潜した情感につらぬかれている。この情感は憂愁をおびた旋律にもよるが、特に変化和音の多い和声によって、醸し出されるものである。小曲ながら、不朽のマズルカということができる。
3曲目:嬰ハ短調
ショパンの生存中に出版された最後のマズルカであるこの嬰ハ短調の曲は、節約された語法ながら、ショパン的なるもののすべてを言いつくしている。ピアノの旋律音域の微妙な違いを、短い旋律が歌いかわして、精妙に音色を浮かび上がらせる。ピアノを知り尽くしたショパンでなければできなかった奏法である。中間部は変二長調に転じて、主部との調的音色の対照を描き出す。この効果も絶妙である。
■モーツァルト:ピアノ・ソナタ第10番
このソナタは、モーツァルトのパリ滞在中に書かれた代表的な作品のひとつで、ここでみられる古典的な端正さとフランスのギャラントな性格、ピアニズムの巧みなことは、他に類がない。大体1778年の夏、「トルコ行進曲」付きのイ長調やヘ長調と同時に作曲されている。
第1楽章:ハ長調
2つの主題は明確に対比し、結尾主題もともなった典型的なソナタ形式における主題設定法をとっている。冒頭に現れる第1主題は、そのまま休止することなく経過部へ入り、すぐに第2主題を導く。更に結尾主題も続いて現れ、華やかなパッセージを連ねて提示部を終わる。
展開部は比較的短いもので、新しい旋律で開始される。しかく、これは特に展開用の主題はなく、右手が経過句を奏でながら既出主題の展開を試みずに進行し、やがて再現部を導く。
再現部は型どおりで、2つの主題が順次に示された後、静かに結ばれている。
第2楽章:ヘ長調
構造は単純な三部形式。第1部は静かなモノローグに始まる。
中間部はへ短調に移り、ファゴット風のムルキー・バスを従えて、2重唱が始まる。
第1部が再現し、最後に中間部の旋律がちょっと顔をのぞかせるが、これはモーツァルトの手稿にはなかったとされている。こうした回想風の終止は、他に類を見ない。
第3楽章:ハ長調
形式はソナタだが、性格的には軽快なロンド。のびやかな第1主題ではじまる。次いで、やはりハ長調の新しい主題が示される。これは第2主題ではなく、調性から見て明らかに第2の第1主題で、本当の第2主題は続いて現れる。それで、やや長い結尾部に終わる。
展開部は新しい主題に始まる。そして、これは第1主題のそれと似通った、展開部の主要旋律となり、直ちに再現を導く。
再現部は、これも型どおりで、華やかに結んでいる。